起業家列伝3回 - 居酒屋とりとん、居酒屋行くなら俺んち来い。や、燻し家もっくん、ダイニングPecoriなど合計27店舗のオーナー・坂本憲史氏の発想の原点を探る | フランチャイズビズ | 加盟募集の比較・独立開業・新規事業探し


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起業家列伝第3回

起業家列伝第3回社長インタビュー、株式会社ファイブグループ代表取締役坂本憲史氏 関わる全ての人が楽しくなれる環境を作り、社員満足度No.1を目指す。居酒屋とりとん、居酒屋いくなら俺んち来い。や、燻し家もっくん、ダイニングPecoriなど合計27店舗のオーナー・坂本憲史氏の発想の原点を探る

大学を卒業後、カフェバー業態のPRONTOを展開するプロントコーポレーションに入社。その後、様々な業態で働き、30歳で独立。関わる全ての人が楽しくなれる環境を作り、社員満足度No.1を目指すべく、現在、居酒屋とりとん、居酒屋行くなら俺んち来い。や、燻し家もっくん、ダイニングPecoriなど合計27軒を全て黒字展開中の坂本憲史氏に、飲食業での起業について伺った。

吉祥寺っ子居酒屋とりとん、池袋っ子居酒屋俺たちのとりとん、下北っ子居酒屋とりとんくん、居酒屋いくなら俺んち来い。町田店、燻し家もっくん、Pecori、吉祥寺Pecori、こんばんわぁ千葉っ子ダイニングPecoriです!ファイブグループ

はじめに

本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。今日は、大きく3点についてお伺いしたいと思います。まずは、創業の経緯について、次に創業前後の苦労話について、そして最後に、今後の展開についてです。

居酒屋いくなら俺んち来い。町田店
"いざこい"の愛称で親しまれる人気店(町田)

独立希望者大歓迎!

現在37歳で、ちょうど7年前の30歳で起業されていますね。

坂本社長:
 当時のことは正直あまり覚えてませんが、大学時代にはすでに飲食業で独立しようと考えており、卒業後にプロントに就職したのです。そこで5年間やったのですが、まだ経験が足りないと感じ、その後、他の業態で2年間働いて、独立したのがちょうど30歳だったのです。

というと、何がなんでも30歳までにというわけではなかったのですか?

 そうです。最初就職したときには、当時の社長に「3年で独立したい」という話をしたところ、「やめる人間を採用する会社はない。」と言われたのを覚えています(笑)。
 ただ、今では時代が変わって、当社もそうですが、独立希望者を歓迎する会社が増えているのです。それはどういうことかというと、独立する人材というのは、お客様にとって、いい店を作るということに関しては、軸が定まっておりブレないので、いわゆるサラリーマン的な、"上司の顔を見ながら仕事をする"ということがなく、会社にとってもお客様にとってもプラスになる、ということなんです。

なるほど

 そんなことで、当時はとても社内では独立の話などできる環境ではなかったので、その間はモチベーションの維持がとても困難でした。
 一つは、やはり相当忙しかったので、先のことを考える余裕がなかったことと、もう一つは、独立できる、という自信を探していたのです。

身の丈を知る

独立に踏み切ったきっかけはなんだったのでしょうか?

 他の人よりも、自分の方がいい店を作れると思えるようになった時です。

自信ができても肝心の資金がないと独立はむずかしいのでは?

 365日独立について考えていると、だんだんと、自分がやりたいことと、やれること、というのが分かってくるわけです。最初は、和風ダイニングみたいなのをやりたいなと考えていたのですが、やはり資金の問題があって断念し、できる範囲で考えたときに、焼鳥屋かラーメン屋かという選択肢になり、最終的に焼鳥屋を選択したのです。

なるほど。身の丈を知るということですね。

 そういうことです。資金的なところから何ができるのかというのを逆算しました。結局、誰もがそうなのですが、やりたいことを妄想してどんどんふくらませても、実際に計画してリアリティを出すと出来る範囲が見えてくるわけです。

その時の自己資金はどのくらいご用意されたのですか?

 500万円です。独立に向けて2年で貯蓄しました。創業の融資は当時の国金(現日本政策金融公庫)に申し込みました。経営実績が必須ということで、銀行にはいきませんでした。当時と大分状況が変わって、政策金融公庫も大分借りづらくなったと聞きます。

見せ金は一発却下で、コツコツと貯蓄した実績が重視されます。

 当社独立の人間で以前借入を起こして、断られたことがありました。見せ金のことや、借入を起こすテクニックについては少しアドバイスしていたのですが、無担保でお金を借りることについて甘く考えているのではないか、誠実さが伝われなければそれは断られて当然、ということを話した記憶があります。

自己資金0円は独立とは言わない

自己資金なしで独立したいと相談してこられる方が、増えています。

 それは本当に多いですね。当社では独立制度を来年から本格的に始める予定で、今でも実際に独立制度で独立した人間はいるのですが、今、一番言いたいことが、それなのです。お金を借りるということすら人頼みなのです。国と言えども、お金を借りるということは、それは自力ではなく、自分はそこに頼らないと独立できないのだ、ということを自覚しないと駄目なんです。

今とてもいいことをお伺いしました。

 全部自己資金だと胸を張ってやる方は、本当にお金の大切さを知っていますし、独立の大変さとか、お金を貯める大変さとか、貯めたお金を使うことに関するリスクとかに対して、ちゃんと心構えが有るわけなんですけど、無担保で借りたものを、自分のモノだと勘違いしては駄目なんです。こんなあまい考え方だと失敗しやすいですよね。

成功と失敗の境目

撤退理由の大部分はお金の問題に尽きます。

 成功か失敗するかの境目は、まさにお金に対する考え方にあります。お金を借りることに関して安易すぎるのです。政策金融公庫が、ある程度自己資金がある人でないと貸さない、というのは正しいです。

信じられない話ですが、オープンしないうちに撤退や、3ヶ月や半年で撤退したいという相談が増えています。

 あくまで当社の場合ですが、半年から1年分の運転資金を確保します。何があるかわからない、というところをシミュレーションしておかないとまるまるリスクになってしまいます。
 飲食の場合、撤退理由のほとんどは資金繰りの悪化ですから。当社の場合、現在27軒全てが黒字でも、リスクとして考えるのは、関東大震災であるとか、天災の類で半年くらい経済が麻痺しても大丈夫なように、経営の調子が良い時にでも細かく借入を起こして常に余剰資金を確保しています。逆に言うと、調子が良い時でないと、危なくなってからでは銀行は貸してくれないのです(笑)。
 当社ですら余裕をもって備えているのですから、ましてや初めての方は十分に備えておくべきです。たしかに綱渡りでやるしかない場合も多いのですが、だからこそ早期撤退が後を絶たない、いわば当然の結果と言えます。

具体的にはどのようにすれば?

 "余分に借りる、余計に使わない"です。
 できるぎりぎりのところではなく、余裕を持ってできるスケールでビジネスを起こします。最初は、余計に人件費を掛けないで自分と身内だけでやるとか、居抜きを活用するとか、小さいところからコツコツと始めます。うまく行くビジネスならば、黙っていても後々大きくなりますから。
 最初のうちは最低でも3ヶ月分、出来れば半年から1年分の運転資金は確保しておきましょう。

株式会社ファイブグループ代表取締役坂本憲史氏
「自己資金なしは独立とは言わない」
と語る坂本社長

居抜き物件を選択する理由

費用対効果を考えた場合に、居抜きを選択される場合が多いと思いますが、物件を見極めるポイントをお伺いできますか?

 現在27軒を展開しております。全部が全部居抜きというわけではないのですが、最近は居抜き物件を選択することが多くなってしまいまして、全体の2/3が居抜きです。
 居抜きというのは、前の方が一生懸命やって残念なことになったのですから、当然何らかの形で前を上回るものがないと、同じく残念なことになるわけです。また、飲食は立地ビジネスでもあるわけで、そこを分かった上で、上回る提案が必要です。
 したがって、単に造作が安いからとか、経済条件が安いからという理由だけでは出しません。前より明らかに優位性ある提案が出来るかどうかが判断のポイントです。

居抜きのバーゲンセール

なるほど。単に低投資だからと飛びつくと落とし穴もあると。

 不思議なのですが、日本の場合居抜き物件の資産価値がほぼ0に近しいのです。アメリカなどは、居抜きにはそれなりの資産価値がつくのですけれど、日本はそうではない。
 需要と供給だと言ってしまえばそれまでですが、これから開業する人にとっては、日本は居抜きのバーゲンセール状態ですから、歓迎すべきことかもしれませんが、安いからといってよく考えもせずにカゴに入れてしまうのはどうかと思います。本当にそこで自分にとって成功するビジネスが出来るのかどうかというのを見極める必要があります。

見極め方の部分で、前店舗の何を見るのですか?

 損益分岐点を見ます。その上で、前を上回れるかどうか。
損益分岐点を見ると、初期投資をかけすぎて分岐点が上がってしまった場合があり、居抜きであれば分岐点が下がりますから、同じ売上でもできると判断できたのならやればいいと思います。

独立するに当たって、どういうところに注意されましたか?

 FC本部に5年いましたし、その後も他の業態で色々とやりましたから、経験はそこそこあったわけですが、それでも1軒目ということで、失敗したらそれで終わりなのです。
 よく、「とりあえず1店舗目は・・」と言う方がいますが、その「とりあえず・・」という考え方は改めたほうがいいです。大富豪ならまだしも、そうでないなら1軒目が全てですよ、リスクは最大ですよ、失敗したら簡単には立ち直れませんよ、ということなんです。
 ですから、1軒目は100回考えたほうがいいです。いろんな角度から考えて、そうすると正しいかどうかということが色々と見えてきますから。

負けない立地

具体的にはどういうところに注意すべきですか?

 失敗しないためにはどうすればいいか、という視点で1軒目を出しました。具体的には次の3つです。お金を掛けない、人を使わない、駅前であること、これらを考えて出店しました。

駅前とは人通りが多い立地ということでしょうか?

 つまり、集客できる立地ということです。1軒目はFCだったのですが、秋田に本部がある激安焼鳥チェーンのFC1号店でした。当時デフレでもなく、アッパー業態の居酒屋が乱立していました。でずが、安ければ、あまり儲からないかもしれないけれど、全然来ないということはないだろうと。儲からないとは言っても赤字では商売にはならないわけで、利益は薄いかもしれないけれど、お客様が来ないはずはないという立地を選ぶことで、リスクヘッジを優先したのです。
 ですから、人通りが多いところで儲けたいとかそういうことではなく、まずは失敗しないところを選ぶことが大事です。

なるほど。失敗する理由がない状態にしていくということですね。

 そういうことです。色々あると思いますが、安くて、駅近で、その他もろもろ前提条件を揃えた上で、これなら地域一番になれるな、というものができれば、生き残ることはできるなと。それで失敗したのなら諦めればいいと思います。

駅前というと家賃が高いというリスクがあると思うのですが。

 家賃は、実はたまたまとても安かったのです(笑)。当時、吉祥寺に出すと決めて、1年くらい歩いて探しました。そうして出てきたところが、駅は近かったのですが、トイレがなく、安く借りられたのです。狙い通りの一角で、募集が殺到しまして、たまたま入居出来たのでよかったです。

迷惑だから来ないで欲しいと言われた

何故入居出来たのですか?

 ここしかない、という気持ちで一生懸命プッシュしました。不動産屋さんに今から挨拶に行きます、と電話したとき、「来ないでください」と断られたんです。それでも諦めきれませんから、「挨拶だけでも。」と食い下がったら、「迷惑です。」と突き返されたのです(笑)。それだけ募集が殺到し、多分すでに候補者は決まっていたのだと思います。

それでも食い下がって挨拶に行ったのですか?

 行きました。菓子折りを持って直接訪問しまして、どうしても入居したいので話だけでも聞いてください、と。 それから1ヶ月くらいして、諦めかけたときに、「貸してもいいですよ」と連絡があったのです。

前の候補者が何らかの理由で落ちたのでしょうか。

 当社では、現在もそのビルで2店舗を経営しており、長い信頼関係がある中で、今だから言えますが、と後から聞いた話です。 入居審査に当たって、京都の有名な占い師に相談したらしいのです。結局8社くらい募集があった中で、どこがいいですか、と聞いたところ、私を選んで、行列のできる繁盛店をつくりますよ、と言ってくださったそうで、それが本当にあたったのよ、と教えてくれたのです。
 やっぱりというか、そんなものかというか、ご縁なんだなぁと感じました。1号店は地下にあるのですが、実際に、平日でも絶えず地上まで20~30人くらいの行列ができる繁盛店になりました。

大したことないなと言われると安心した

繁盛店になって変わったことはありますか?

 当然競合の偵察が増えました。同業者というのは、ビール一杯に焼鳥2,3本というオーダーが多いので、見ればわかりました。
 中には「大したことないな」とわざと聞こえるように話す人もいるわけですが、そういう声を聞くたびに安心しました。 ようするに、行列ができるのには理由が有るわけで、そこを見ずして、大したことないと評する人は、全然怖くないのです。

ちなみに、今だから言える、という部分で、行列ができる理由はなんでしょうか?

 安さだけが理由ではない、ということです。
 当時は安いというだけで人が入りましたが、今これだけデフレが進んだ世の中で、均一価格の低価格業態が乱立してきている現在にあって、当社は必ずしも低価格ではなくなってきつつあります。 その中で勝っているわけですから、安い以外の理由があるのです。

それは業態、あるいは業態力ですか?

 業態というより、店そのものに込める思いですね。  安ければ良い、美味しければ良い、という時代はとっくに終わっており、100人いれば100人の考え方があるわけで、俺はこういうことをやりたい、という思いをしっかりと反映させることです。  こういうことをやれば当たるだろう、という、他人の考え方を反映させたようなものだと、思いが込めきれずに失敗します。自分がこういうことをしたい、自はこういう人を喜ばせたい、自分だったらこういう店がいい、というのをはっきりとさせれば、自分と同じ考え方の人は間違いなく来ますから。

自分のための店作り

人のための店作りではなく、自分のための店作りということでしょうか?

 そうです。自分がお客さんとして来たい、そういう店を作るのです。
 よくターゲットを明確にする、ということで、オフィス立地だからアラサー・アラフォーのビジネスマンを、住居立地だからファミリーをとか言いますが、そういう形式ばったことではなく、自分だったらこういうところがいいな、こういうのなら行きたいな、というのを作る方がブレずにいいと思います。
 結局そういうところのほうが、常連さんが付きやすいのです。

なるほど。坂本社長のところで展開されているのは全部違う業態ですね。

 そうです。会社の押し付けではなく、任せた店長の人間性で作るほうが、お客様が共感しやすいんです。 今は、雑誌などを見ても、コンセプトに走ったお店が注目されますが、あれは一時的に儲けるためにやっていますから、廃れるのも早いですよね。それが目的なのかもしれませんが、企画者が作のって、誰の思いで作ってるの?って。
 お店を知らない、飲食に興味のない企画者がコンセプトをつくって、どこからか借りてきたような店長を付けても、お客様が支持をするわけがないのです。

地味なお店の中でも、キラリと光る、他と比較して突き抜ける、というものが必要だと思うのですが?

 特徴は大事なのですが、特徴ばかり追い求めていると、足元をすくわれるので、そこはいつも自分のところの業態でも肝に命じています。
つまり、ちゃんと飯が提供できる、値段が適正である、というような、お客様の飲食店に求める本来的なニーズを、きちんと満たすことが重要です。その上で、特徴や突き抜けたものを追求していかないといけないと思います。
 当社の場合、それぞれ異なるのですが、全て一貫しているのは、従業員が楽しく働ける職場、というのを目指しているので、そこが他との差として出ているなと感じます。

本気になればすべてが変わる”できるか””できないか”ではない!!”やるか””やらないか”だ!!
我々の仕事は物販業ではなく、本当のサービス業だ!

目指すはGoogle

一店舗目を出して大成功したわけですが、その裏で、想定外のことが起きて困った体験などはありますか?

 ルールを作らないで営業する環境を作りたかったので、固定概念や既成概念にとらわれずにやってくれという指示を従業員に出したところ、混乱が起きたのです(笑)。何をして良いのかわからない、と。
 目論見としては、お客さんが喜んで帰ってくれればいいので、そのために何をすべきか、というのを逆算して行動してもらいたかったのです。自分としては、決められた通りにこなす仕事よりも、自由にやれる環境の方がいいと思っていたのでそうしたのですが、みんなはそうではなかったんですね。
 その時、私が感じたのは、日本の教育に対する危機感なんです。日本の教育は、社会に出たときに社会の歯車となる型にはめた人間をつくる教育システムだな、というのを確信したのです。

言われたことはできるけれども、言われないことはできないと。

 そうです。言われたとおりに動くけれども、言われないことはやらない、というのは、当時、企業にとって都合が良かったわけですよ。人というのは自分で考えるから人なのであって、考えないのはロボットなわけです。
 そういった危機感から、当社では人を育てる、ということに当初から取り組んでいるのです。
 社内にも貼り出しているのですが、当社が目指すのはGoogle的な企業なのです。主体性を育てる企業風土です。全社員で主体性を鍛えるセミナーを受講しております。


社内に貼り出された坂本社長の思い


主役である現場の社員が情熱を持って自発的に仕事に取り組む環境をつくるには、組織のフラット化を追求すると同時に"管理しない"仕組みを醸成することが重要


自分で考えさせる

混乱が起きた際にどう対処したのですか?

 事実だけ伝えました。たとえば、お客さんが怒っているのは事実だけど、お前が悪いのかどうかなんて自分で考えろと(笑)。ただ単に、怒っているから面倒だといって自分が悪いと建前で片付けるなよ、でも悪いと思ったのなら本音で謝ればと。最低限のことは教えますが、クレームを恐れてマニュアルをがっちり作るようなことはしませんでした。
 事実だけ伝え黙っていると、何故クレームをもらったのか、どうすればクレームをもらわなくなるのか、というのを自分で考えるようになるのです。クレームをもらったときに、お前はこうこうこうだからクレームをもらうんだ、と叱りつけたところで、本人がそのことに納得しなければ何も改善しないばかりか、スタッフの成長を阻害することになるのです。
 売上が立ち、ビジネスとして成り立つ、ということは当然大切なのですけれど、私にとって人が育つ、ということの方がずっと重要なのです。
 もちろん、今であれば、売上をあげながら人も育成することが出来ます。こうしてやってきた結果、すごく面白い店が出来ました。結局それがお客様が求めるものなんですね。
 各自が、お客様を喜ばせることに集中した結果、お客様も喜び、自分たちも楽しい、そういう場所ができました。そして、けして安いからではなく、料理だって正直そこまで美味しいわけではありませんでしたが、支持されたのです。お客様が求めるものがだんだんと変わっているのかもしれません。

人材育成に力を入れていらっしゃるのですね。

 まず基本的な部分で、店舗ミーティングという形で、全社員と毎週2、3時間のコミュニケーションの時間をもっています。今は自分自身では出来ないのですが、きちんと担当をつけて仕事の中で実施しています。
 他には、店長会や幹部会、外部研修なども頻繁に行っておりますし、各店舗で企画し開催されるイベントが年間100くらいあります。
 これが人材育成にとても良い効果があります。当社の業態が、常連比率が高いというのは、こういったファンを飽きさせない仕組みがきちんと機能しているからなのです。

イベントの定期開催はどういう狙いがあるのですか?

 まず、お客様とスタッフとのコミュニケーションの場と捉えています。コミュニケーションを深めることでお客様が常客になっていくのです。また、スタッフのモチベーション向上に寄与します。
 ただ、このモチベーションは仕事へのモチベーションではなく、達成感というか、小さな成功体験の積み上げによる、人生のモチベーションです。
 運営者側からみすと、これは実施すればするほど実際は赤字なのですが(笑)、教育費用と見ています。

モテ社員になれ

モテ社員になれ、ということをメッセージとしておっしゃられていますね。

 そうです。これは、自分の仕事にプライドを持って欲しい、ということなんです。いい会社に入るだとか、お店であれば、より良いところに入るとか、ダイニングとかバーはカッコイイ業態と見られがちです。
 でも、焼肉屋とかホルモン屋とか焼鳥屋とかはあまりかっこ良くないと。そうすると飲食やるのであればダイニングで働きたい、となるのです。職人であれば、一流の料亭や一流ホテル、星のついてるレストランとかですね。そのほうが格が上だし、同じ飲食であれば客単価が3千円の居酒屋よりも、3万円のレストランの方が偉い、とかいう感覚になってしまう。
 そうではなくて、どんな仕事でもプライドが持てる、そんな時代になってきていると思います。どういうことかというと、自分が誇りを持って仕事をするかどうか、ということなんです。どんな仕事であっても、不平不満を口にするような人はかっこ良くないのです。プライドを持っていないわけですから。
 「俺はこのお好み焼きで全てのお客さんに美味しいと言ってもらうんだ。」「俺の作る焼鳥が一番美味しいんだ。」ってプライドを持ってやっている人たちが、お客様からとってもカッコイイ人間なんじゃないかなと思うんです。
そういう意味でモテ社員になってもらいたいなと。実際当社の社員はみんなモテますから。私を除いて(笑)。

なるほどプライドを持って仕事をされている方は輝いていますね。

 プライドを持つと自信がついて、自信を持ってやっているスタッフは気持ちがいいですよね。

業態の特徴や、食材へのこだわりにフォーカスして饒舌に語られる方が多い中で、坂本社長のところは、繁盛の秘訣が掴みどころがない印象があります。

 そこはあえてぼやかしていますから(笑)。そうは言っても要所要所はお伝えしたつもりです。

それは人材育成の部分でしょうか?

 そうです。一つは、食材や箱ではなく、人が売りになる時代だということです。人の輝かせ方という部分で、他にはないものを当社は保有しています。言ってしまえば、今、人で勝負する飲食店はほとんどないのです。
 メニューも値段もどこにいっても大体同じですし、同じ業態が何軒もあるという状況ですから、その中にあって、人をもっと大切にする業態があれば、そこだけでも特徴として打ち出せるものになるのです。
 つまり、飲食業では経営者があまりにも人材をモノとして見過ぎなんです。飲食業で働く人達の地位をもっと上げたいですね。

業界で働く人の地位向上ですか。

 そうです。もともと現場出身ですから、この業界で働く人の不安要素は身に染みて分かっています。これだけ巨大な市場を保有する業界にも関わらず、この不況下にあって、この業界で働きたいという人は激減しています。仕方なくという方も多く、本当に好きで働いている人にとっても、プライドが持てなかったり、または持たせられてなかったりするのが現状ですから、もっとプライドを持って働く人が増えてほしいですよね。

小売業化、流通業化する飲食店

これから独立開業される方にアドバイスをお願いします。

 あまり背伸びせず、やれることからやったほうがいいと思います。名前の通りサービス業ですか ら。サービスに価値をおいてやればいい店ができると思います。小売業ではないのです。単にモノを売るだけではないわけです。単にオーダー を受けてモノを運ぶだけの流通業でもありません。

現在は、単なる小売業化しているところが増えてしまっていると。

 そうですね。コンセプトだけに乗っかって、単に売ったり運んだりするだけのところ増えましたよね。 形だけの笑顔だとか、形だけの挨拶とか、形だけの接客というのは、お客さんに見透かされますから。それすら当たり前になってしまっているのが現実です。
 話は変わりますが、外国の方からすると、日本人の愛想笑いが理解不能らしいです。感情と切り離されたところで表情を作れる日本人は、彼らから見るととても不気味に見えるのだそうです。怒られているのに笑っているとか。
 笑顔が大事、という日本式サービスが中国でも教えられていますが、本来笑顔というものは心から沸き上がってくるものですから、そこを抜きにして「はい、スマイル」というのはどうなのかと。
 同様に、いらっしゃいませ、ありがとうございました、喜んで、など言葉だけが一人歩きしているんです。

世の中の常識を疑え

商売の原点ですね。

 挨拶はもてなしの原点です。お辞儀をするということ一つとってみても、頭を差し出す、という意味ですから。つまり、あなたに対して反抗する意思はありません、という意思表示なのです。
 無意識にやってしまう色々なことも、常識を疑って考えてみることで、心からのサービスとは何かが分かると思います。極端な話、心のこもってない笑顔で「いらっしゃいませ」と言われても気持ち悪いので、だったら、無言の方がいいと思います。仕事が楽しくなるにつれ、本気のいらっしゃいが言えるようになればいいのです。

今後の展開についてお願いします。

 業態ごとにチーム分けをし、リーダーをどんどん作っていきたいですね。その中で、子会社化していきたい。独立できる人間 もどんどん輩出していきたいですね。ですが、これも活用してもらい、自分でお金を貯めて、2軒目は全部自己資金で完全に独立をしてもらえればいいと思います。

サービス業を追求する

会社の人員も増やしていく方向ですか?

 そうですね。当社の特徴としてアルバイト上がりの人間が非常に多く、人がやめない、というのがあります。今まで人材不足で困ったことは一度もありません。人がやめない、ということが企業成長の礎になります。また辞める人間が少ないことは、社員満足度のバロメータと思います。

最後に一言お願いします。

 まず、融資を受ける場合は、誠意が一番大事です。テクニックで借りることも出来ますが、自己資金0円は独立とは言いません。人様のお金を借りてるんだ、ということを肝に銘じてください。コンビニなどでもよくありますが、立地も箱も商品もすべて用意されてオーナーになりませんか?という。あれは独立とは言いません。
 そして自分の仕事に誠意を持って、当たり前のことを当たり前にできる、サービス業を追求して欲しいです。

本日は、株式会社ファイブグループの坂本社長にお話しをいただきました。坂本社長、お忙しい中お時間を頂戴し、また、貴重なお話を頂戴しましてありがとうございました。

プロフィール

株式会社ファイブグループ代表取締役 坂本 憲史 (さかもと けんじ) 氏
会社理念 関わるすべての人が楽しくなれる環境を作ること。 関わるすべての人が楽しくなれる環境を作ること。これがファイブグループのコンセプト

株式会社ファイブグループ
代表取締役 坂本 憲史 (さかもと けんじ) 氏


1973年生まれ。東京都出身。様々な業態で飲食店経営を学び、1999年に株式会社ファイブグループを設立。ルールに縛られたがんじがらめの社会環境から、関わるすべての人が楽しくなれる環境を作ることをモットーに、ルールを一切設けない自由度の高さをウリにした経営方針で、社員満足度No.1を追求。創業以来根強いファンがつくヒット業態を次々と生み出し、展開する直営全店黒字、離職率約6%という脅威の外食企業を創り上げた。


企業データ
会社名株式会社ファイブグループ
本社所在地東京都武蔵野市吉祥寺南町2-8-7吉祥寺ガイビル3階
設立年月日1999年10月1日
事業内容飲食店経営/飲食店マネジメント/教育支援/コンサルティング/人材育成、派遣
所有ブランド吉祥寺とりとん、俺達のとりとん、とりとんくん、居酒屋行くなら俺んち来い、燻し家もっくん、Pecori、他
http://five-group.co.jp/