起業家列伝1回 - 「新潟かつ丼"タレカツ"」オーナー・阿部信明氏の発想の原点を探る | フランチャイズビズ | 加盟募集の比較・独立開業・新規事業探し


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起業家列伝第1回

起業家列伝1回

元シンクタンクのコンサルタントであり、人材派遣会社経営を経て、IT企業のサラリーマン。飲食業経験・知識一切なし、のサラリーマンが、ただただ自分が食べたい一心で業態開発を決意し、起業。ご当地グルメブームの影の火付け役となった"新潟かつ丼"で、今や、加盟店含め複数展開する、FCブランドオーナーとなった阿部信明氏に、飲食業での起業、地方からの都心部出店について伺った。

新潟カツ丼タレカツの店舗外観、メニュー

はじめに

本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。今日は、大きく3点についてお伺いしたいと思います。 まずは、創業の経緯について、次にタレカツという業態について、そして最後に、ご本業のコンサルティング業についてです。

新潟カツ丼タレカツの店舗外観
JR水道橋駅から徒歩3分のタレカツ神保町本店。

畑違いの飲食業へ転身!?

まったく違う畑からの外食産業への転身と聞いております。創業の経緯についてお伺いできますでしょうか?

阿部社長:
 現在の会社を設立する前は、7年間IT企業で企画や経営管理の仕事をしていました。その前は、自分で創業しまして会社をやっていました。3年間くらいですね。

  

それはどのような会社だったのですか?

 輸入住宅を扱う会社でした。ちょうどバブルの頃であり、米国製品をどんどん日本が買わされていた時期で、ツーバイフォーと呼ばれる住宅の輸入を、当時の通産省が支援をしていたんです。その流れを受けて、ディベロッパーや、不動産業者、住宅会社などが取組を始めたのですが、デザインや建材はいくらでも輸入できるのですが、肝心の技術者が不足することとなり、そこで、輸入住宅専門の技術者を育成して派遣する会社を設立したのです。

  

いわゆる当時の日本では、ツーバイフォー構法のできる技術者は少なかったのでしょうか?

 その通りです。日本には日本型のツーバイフォーというのがあるにはあるんですが、それとはちょっと違っていて、北米のそれは、資格制度になっており、資格を有する技術者を特にフレーマーと言って区別して、資格のランクに給与体系も連動する、という仕組みになっているのです。さらに、彼らの場合、個人個人が独立した技術者であり、ユニオンに登録をして、仕事が入ってきたらユニオンから斡旋を受け、現場現場でチームを編成し、そこで支払われる給与が資格ランクに連動するというわけです。
 その仕組みが非常に面白いと思いまして、日本で事業化し、若い技能者向けの育成プログラムを開発したというわけです。それを3年間くらいやりまして、事業売却をしたのです。その後IT企業に入社をしました。

ただ自分が食べたかったから

まったく畑違いの飲食業界へ転身された転機は何だったのでしょうか?

 私は新潟出身なのですが、当時好きでよく食べていた新潟かつ丼を、東京でも食べたいなぁと思ってお店を探したところ、1つもなかったわけです。そこで、自分で食べたいがために出したのです。

  

今まで飲食のご経験がおありだったのですか?

 いいえ、まったくの初めてです。アルバイトも含めて飲食の経験はありません。

  

それはすごいですね。経験のないところに飛び込むことはとても怖かったのでは?

 最初はこれをビジネスとは考えていなかったのです。自分が食べたくて始めたものなので、失敗しても大丈夫なように、自分のサラリーのなかでリスクが賄える範囲で、初期投資のキャップを設定したのです。

  

それでも未経験分野なので、いろいろと不安があったかと思うのですが、踏み切ったきっかけは何ですか?

 一番大きいのは知人の存在です。某大手チェーンの商品開発の責任者さんで、彼にこの話をしたところ、ご両親が新潟出身ということもあり、大変面白がってくれて、個人的に協力を申し出てくれたことで、とんとん拍子で話が進むこととなったのです。
 最初は、彼の伝手で毎週末テストキッチンを貸していただき、仕入れ先から何までいろいろと開発協力をしていただいたのです。
何せ素人のやることなので、食材をしっかり整え、調理はシンプルオペレーションでできるように考えて商品を作り込みました。

  

なるほど。ここまでしっかりした業態の裏側にはそういった事情があったわけですね。

 それもありますが、やっぱり自分自身がサラリーマンをしていたことと、アルバイトに任せるにあたって、誰でもできるシンプルオペレーションが絶対に必要だったということですね。

  

今でこそB級グルメやご当地グルメということで話題に上ることも多くなりましたが、新潟ではどのくらい前からあるのですか?

 知っている範囲ですと、3~4年前ですでに20~30軒くらいあったのではないでしょうか。大学時代まで遡っても、よくいくのが4~5軒ありましたね。我々の東京進出が旗振りになったこともあるようですが、今では市内に60店舗ほどあるようです。

  

新潟市内で60店舗ですか?

 そうです。今やコンビニや駅でも弁当として売られているくらいです。

  

IT企業に在職中に一号店である神保町をオープンし、その後、法人化をして株式会社ラグーンインターナショナルを設立しておりますが、社名の由来を教えていただけますか?

 ラグーンとは英語で、"潟"という意味で、新潟の潟からとりました。ラグーンだけですとあまりにもドメスティックになりすぎるので、インターナショナルとしました。

冗談交じりの一号店

一号店についてお聞かせください。

 まず、出店自体が半分冗談のようなもので、たまたま知人がやたらとやる気になってしまったために、半ば勢いで出した感がありましたが、とはいえ、「よしやるぞ」となるまでには、実は半年ほどかかっているんです。

  

なるほど。業態開発に半年かけられたわけですね。

 そうです。この業態は単品メニューなので、それがこけたら全部駄目になっちゃうじゃないですか。なので、商品開発には相当力を入れました。

タレカツ丼
タレカツ丼は、揚げたての薄めの
トンカツを"甘辛醤油ダレ"にくぐ
らせた、新潟市発祥のカツ丼。

最初は歩いて探した

1軒目を神保町にするに至った経緯を教えていただけますか?

 神保町は2007年にオープンしたのですが、当時は店舗そのままオークションなどのインターネット物件探索サービスはほとんどありませんでしたから、とにかく自分の足で歩いて、地場地場の不動産会社を訪問して回りました。

  

神保町はかなり歩いて、「よしここだ!」、と決められたのですか?

 神保町は候補の1つでした。他にも2つ3つ候補があったのですが、神保町はいいな、と思っていました。理由としては、商圏として、学生もいるし、サラリーマンもいるし、出版社もあるし、東京ドームも近いし、ということで、流入客も含めバランスよく取り込める立地ということで、面白いと判断しました。それと、天ぷらのいもやさんや、キッチンジローさん、カレーの共栄堂さんなど、単品で勝負して流行っているところがあり、そういうのを支持する顧客層がいると判断したのです。

  

なるほど。すると吉祥寺もそのような視点で出されたのですか?

 吉祥寺はFCなので、オーナーの意向がありました。最初高田馬場で、という話があったのですが、この業態は安い業態ではありませんので、業態の調整が必要だなと思っていたところに、ちょうどいいタイミングでちょうどいい物件が吉祥寺に見つかったのです。当時は、商圏分析などちゃんとやっていたわけではありませんが、人の多さや街の雰囲気、同じような価格帯の業態があることなど総合的に判断して魅力的だなと判断しました。


JR水道橋駅のすぐ向こうには東京ドーム。


近隣には日本大学や出版社の建物も多い。


実は女性受けするメニュー

その他に魅力的だなと思っているエリアはありますか?

 秋葉原や中野など、中央線沿線というのがイメージに合います。学校関係も多く、企業もあり、商業施設もあり、居住地としても人気で、商圏バランスが優れています。

  

なるほど。

 以前、FRIDYの巻末にある男飯というコーナーに、タレカツが特集されたことがありまして、書いているのは、アド街ック天国などに出ている山田五郎さんですが、実際に撮影で来てくださったときに、アド街に出ているくらいだからうちの業態に合いそうな町とかいろいろ知っているだろうと思い質問させていただいたところ、麻布など割と都心型の立地を上げておられました。

  

なるほど。確かに男飯とはいえ、割とさっぱりヘルシーを打ち出している部分は、女性受けもよさそうですし、品の良さも麻布にはあっているかもしれませんね。

 そうなんです。じつは、うちは女性客が多いのも特徴です。また、山田五郎さんには、うちのタレカツを非常に気に入っていただけまして、男飯のコーナーが丸ごと、「山田五郎が食べ歩く純情の男飯」(講談社MOOK)という本になって発売されたのですが、その本の表紙で山田五郎さんが食べているのがうちのタレカツです。

  

それはすごい宣伝効果ですね。

 面白いことに、女性向けの雑誌や、外国人のモデルしか掲載していないモード系の雑誌などの取材も受けまして、紹介されています。

  

ガツン系だけではなく女性の支持も受けているという部分が、他の丼業態にはない魅力ですね。

「男飯」裏表紙には
山田五郎さんがタレカツを食べる姿が。


あのシロコロに勝った!?

 誌上B級グルメグランプリという面白い雑誌がありまして、こちらの雑誌にも掲載されているのですが、揚げ物焼き物部門で、厚木のシロコロを抑えてタレカツが1位に輝いているんです。B1チャンピオンより上なんです、誌上では。

  

すごいですね。こういったメディアへの露出をきっかけに、何か変化はありましたか?B1グランプリにも出たらよいのではと思いますが。

 イベントへの依頼が増えました。B1グランプリの場合、お店単位というよりは、どちらかというと、町なり県なりのグループ単位になるので、新潟の事務局の人によく話をするのですが、残念ながらまだ実現していません。

神田での失敗

神保町に出店されてから3年が経過したとのことですが、実際にオープンされてからの苦労話などございますか?

 神保町をオープンしてからちょうど1年後に、実は神田に出店したのです。神田では、神保町での反省を活かし、改善しなければならない課題を、全部改善したつもりだったのですが、それがことごとく空振りしました。

  

具体的にいうと?

 細かいのも含めるとたくさんありますが、大きくは3つです。
まずは、テーブル席を設けました。カウンターだけで使い勝手が悪い神保町の反省から、家族やグループに対応できるようにしたのです。
次に、クローズドキッチンにしました。誰にでもできるシンプルオペレーションをモットーに業態を作り込んだので、時間帯によっては、女子大生などのアルバイトばっかり、という瞬間もあるわけです。300円や400円のメニューであればそれでもいいのかもしれませんが、1000円近くいただいているのに、丸見えのオープンキッチンで、いかにもっていう感じの見栄えはいかがかと思い、クローズドにしたのです。
 それと、メニューを増やしました。当時非常にシンプルだったメニューに、夜お酒を飲みながらつまめるものや、お酒の種類を増やしたりしたのです。

  

何がいけなかったのでしょうか?

 まず、回転数が非常に悪くなりました。神保町同様サラリーマンの多いオフィス立地ではあるのですが、テーブル席があると滞在時間も長くなりがちで、かつ、神田は割と古い企業が多いせいか、ランチタイムは12時から13時の1時間に集中しているのです。神保町みたいに、時間帯が集中しないでだらだらと客足が途絶えない感じではないんですね。
 次に、人件費が上がりました。オープンキッチンであれば、キッチンとホールで互いに目が行き届きカバーし合えるのが、クローズドにすることで余計に人数が必要となり、コミュニケーションも悪くなりました。
 そして、原価率が上がりました。メニューが増えたことでロスが増えたり、提供時間がかかったりとオペレーション上好ましくなくなりました。これじゃまったくダメだということで、結局半年で撤退したのです。

  

そうすると従来のままの業態であれば、神田でもいけたかもしれませんか?

 そうかもしれません。そしてそれらの反省を踏まえて作ったのが吉祥寺店なのです。

納得のいく業態ができた

吉祥寺店の特徴を教えていただけますか?

 面積は神保町とほぼ一緒です。カウンター席を主体としながらも、2名テーブル席も少し置いています。テイクアウトにも対応していった方が良いと思い、キッチンを道路側へ配置しました。テイクアウト用の窓も設置してありますが、まだうまく活用できていません。オペレーションに関しても、どんなにピークでも3人で回せます。場所は南口を出て吉祥寺駅前交差点に向かってすぐの井之頭通りに面した1階です。立地もよく、おかげさまで今非常に良い成績で推移していますし、神保町をブラッシュアップさせた収益性の高いモデルとなっていると思います。

  

今後は、基本的に吉祥寺店をモデルとして展開されていくのでしょうか?今後の出店戦略について少しお伺いできますか?

 加盟オーナーの希望もあるので一概には言えませんが、物流を考えるとある程度供給できるエリアは決まってきます。
 基本的には16号線の内側、横浜、川崎、それと今、埼玉のイオンモール川口キャラ店もオープンしています。
 それから、千葉ですと千葉市から内側あたりでしょうか。直近ではお茶の水や小川町のあたりで、あえてドミナントで出店する話も進んでいます。認知度もまだまだ浸透していない状況ですので、お互いがお互いのお客さんを食い合わない範囲で、ある程度密度高く出していくことで知名度を上げていくのもありかなと思っています。

タレカツ吉祥寺店への地図
タレカツ吉祥寺店は、吉祥寺駅南口より徒歩1分。

身の丈を知るということ

初期投資額の考え方についてお伺いできますか?

 これは業態や物件によって変わるので、タレカツに限定してお話しますと、物件取得、内装工事も含めた初期投資額は1000万円前後が目安です。この範囲でどの物件が借りられるか。そこを借りた場合に、シミュレーションをしてみて採算が合うのか合わないのか、というのを計算していきます。この範囲を超えてしまうようだと、業態の調整が必要になります。そういう意味では、キャップをつけるというのは、自分の業態の身の丈にあった設定をするということです。

あえて一等地は選ばない

物件探索する際の優先順位はありますか?

 普通に考えると、まずはターゲットを決めますよね。自分の商品、業態にあったターゲットが比較的多いエリアを選ぶ、サラリーマンだったらサラリーマンの多いエリア、学生だったら学生の多いエリアという風に。
 じゃあ、サラリーマンだったら西新宿や大手町といった、超一等地を選ぶかといったらそうじゃないんです。その次か次くらいを狙っていかないとダメです。基本的にそういう一等地は資本力のある法人じゃないと出せませんし。
 そういう意味で店舗そのままオークションで発行している商圏レポートは非常に役立ちます。

  

一等地でないところに出店する方が良いということでしょうか?

 そうですね。いわゆる一等地ではない方が良いと思います。同じようにサラリーマンの多い立地であっても、神保町でうまくいって神田ではうまくいかないということもあるので、サラリーマンはサラリーマンでもどんなサラリーマンなのかを見極めるのも重要ですし、結果的に神保町の場合、サラリーマン以外にも学生やその他の流入客もあり、うまく分散できたのが良かったです。メインのターゲットはもちろん決めることは決めるのですが、分散できるようなら尚良いのかなと思いますね。

  

ターゲットを分散することでリスクの分散にもなると。

 そうです。想定していたターゲットが本当に来るのかどうかというのも、実際やってみないとわかりませんから。

  

一方で、イメージ先行型で、こういう立地、こういう物件と条件を決めすぎて、条件に見合う物件をいつまでも探しる人もいらっしゃいますね。

 それは最悪なパターンですね。条件にすべて合致する物件というのは、実際はほとんどありえませんから。

  

ある程度妥協が必要だと?

 妥協というよりは、ターゲットを決め、ターゲットがいそうな立地に出てきた物件に対して、業態をどう当てはめていくか、というアプローチが重要です。
 そして出てきたときに、我々が絶対に借りない物件があります。それはメインの通りです。この辺でいうと白山通りがメインになるのですが、白山通りは本当に入れ替わりが激しいのです。

  

何故入れ替わりが激しいのでしょうか?

 賃料が異常に高いのです。坪5万6万という話になると、20坪で家賃100万円を超えるわけです。飲食の売り上げに占める家賃比率は10%以内が理想的といいますから、100万円の家賃の場合、1000万円売らないといけません。日販30万円です。30万円売るには、客単価いくらで何回転すればいいの?と。これは計算すればわかりますが、商売にはならないわけですよ。
 おそらくこういうところを選択する人というのは、人通りが多いから単純に売り上げも上がるだろうと勘違いしているんです。

  

なるほど。

 それだったら、一本入って家賃がガクッと下がるところで出した方が、遥かに利益の残りやすいのです。
 多店舗展開している企業であれば、看板効果を狙ってそれでもいいかもしれませんが、我々はそうじゃないんです。大通りからあえて一本入っていて、大通りから覗いてみて袖看板が見える、というくらいが丁度良いですね。

タレカツ神保町本店への地図
タレカツ神保町本店は、白山通りから
一本入った立地。

1号店ではなく0号店を出す

タレカツは、新潟県のご当地メニューの東京進出、ということですが、今後、地方発都心部出店をお考えの方へ向けて何かアドバイスはありますか?

 私も地方に長くいたのでよくわかるのですが、地方にいる人にとって東京というのはどういう風に見えるかというと、市場としては絶対に魅力的で出したいと思うんですが、それ以上に、「怖い」と感じるんですよ。  では具体的に何をどう感じるかというと、大きく3つありまして、まず、「固定費が高いだろう」、と感じるんです。それと、「競合が激しいだろう」、と。そして、「どこに出したら良いんだろう」、と感じる。つまり、情報不足、マーケティングデータが決定的に不足しているんですよ。
こういうリスクを感じるとどうなるかというと、地方では成功しているメニューでも、果たして東京で通用するかどうかというのがわからない、と不安になって、今地方で上手くいっているし、わざわざそんなリスクを冒して大きな賭けに出ずとも、のんびりやっていけば良いじゃないか、そういうマインドになってきちゃうんですね。
 これらが大きなハードルになっていてなかなか踏み出せないんです。
 ですが、そんな中でも、やっぱり東京で勝負してみたいと思う人や、ご当地グルメブームに乗じて、仕掛けてみよう、そう思う人たちもいますので、そういう人たちへは、彼らの持つ課題というのをどう解決してあげるか、というのがすごく重要だと感じています。

  

満を持して東京へ進出したものの、家賃は3倍、売上は3分の1なんていう話はよく聞くパターンですね。

 それはよく聞きますね。ようするに、気合を入れすぎちゃって、せっかく東京に出るんだから、ターミナル駅だよね、新宿だよね、渋谷だよねって、ものすごく気負って来てしまうパターンですよね。どうせやるなら、っていう。いやいや、そうじゃなくて、それこそ最初は、テストマーケティングでいいじゃないですか、と。  最初に言ったように、サラリーマンでやって失敗しても自分のサラリーの範囲で返済できるっていう、そのくらいの余裕をもってやれば良いんですよ。

  

情報が少ないが故に、地方の人でも知っているメジャーな立地に出したがる感じがあると。

 それはね、やっぱり田舎者なのですよ、もともとが。そういうメジャーな立地に出店することに関する、なんというか、どうだ、すごいだろうっていうね。そういう見栄みたいなものがあるんですよ。「どこそれ?」って言われるよりも、「ああ、そこ知ってる!」って言われる方が気持ちいいですから。

  

少ない情報の中、えいや!と開業するのではなく、テストマーケティングを繰り返しながら、徐々に自分の商品、業態に見合った立地を探していくということでしょうか。

 そうです。まずは1号店ではなく、0号店を出すんです。

1号店ではなく0号店ですか。面白いですね。地方から都心部への出す場合のメリットはなんでしょうか?

 メリットは明らかでして、まず市場が拡大するということです。もう一つは、認知度が上がるということです。

  

メディアでしょうか?

 もちろんメディアの活用もそうですが、マスに限らず、ツイッターだとかブログだとか、掲示板でも構わないんですが、口コミをする個人、消費者の母数が圧倒的に違うわけです。もちろん、悪い口コミが広がる逆のリスクも当然あります。

  

地方からの出店に際し考えられるリスクとして、ヒト・モノ・カネの視点でお伺いしたいのですが、まず、ヒトの面で注意点はありますか?

 ありがちなんですが、職人技を広く展開することは難しいです。誰でもできるシンプルオペレーションにしないと、人材に頼る部分が多くなってしまいますから。それはもう業態とは呼びませんよね。
 遠方のため管理不行き届きで業績悪化し撤退というのが多いですが、誰でもできるシンプルオペレーションにすることで、いざというときも大体が聞きますし、理想的には、現地採用のスタッフのみで運営できる、ということです。

  

次に、カネの面ではいかがでしょうか?

 先ほど申し上げた通り、まず、0店舗出店をし、テストマーケティングをするということです。そして、投資できるキャップを設定し、失敗しても既存店の経営に響かないように、バランスシートをよく見て検討するということです。
 基本的には、常に失敗した場合を想定して計画します。失敗しても既存店の売上、利益でなんとか回せると。その範囲でしかやってはいけません。

  

最後ですが、モノの面ではいかがでしょう?

 物流は、今ではすごく発達していて、小規模であれば宅急便などで十分に対応可能なので、物流コストはかかりますが、それほど心配することないと思います。

キーワードは"懐かしさ"

これからこの業態は流行るぞ、というのはありますか?

 飲食業界に長くいたわけではないので何とも言えませんが、大切な認識として、"ユニークである"、ということが重要だと思います。
 ユニークであることは、すごくリスクがあるようですが、リピーターが付いたときに強いんですよ。ブームを追いかけていると、どうしてもブームの浮き沈みに影響されてしまいますよね。
 私が一番嫌だなと思うのは、B級グルメとかご当地グルメという括りで一緒くたにされることなんです。

  

なるほど。たしかにそれはブームにすぎませんからね。

 そうなんです。実のところ、B級グルメブーム、ご当地グルメブームというのは、2~3年前が一番盛り上がっていたと思うのですよ。

  

ちょうど富士宮焼きそばとか八戸のせんべい汁の頃ですね。

 そうです。今も根強くメディアでは取り上げていますが、一時の勢いはなくなったかなと。そういう意味で、同じ括りにされるとキツイのです。
 ですから、いかにそこから「突き抜けて定番化するか」、というのが大事だなと思いますね。実際は、定番化しているメニューってほとんどのものが、もともとB級ご当地グルメじゃないですか。お好み焼きしかり、たこ焼きしかり。今さら、大阪B級ご当地グルメって言って、たこ焼きやる人いませんよね。それと同じように、突き抜けていかないと3,4年後残っているのは難しいなと。

  

スタンダードなものを目指していくということでしょうか?

 スタンダードとか定番とか言っちゃうと何を定番とするか、という議論になってしまいますが、幸い、うちのタレカツは、食べたことがない人でも、初めて食べて、「懐かしいよね」とか「食べたことあるよね」と言われるんですよね。でも他にはない。それが答えかどうかわかりませんけど、そういうものなのかなと思いますね。

  

なるほど。

タレカツメニュー
カツ丼メニュー。

バックボーンを売る

株式会社ラグーンインターナショナルでは、タレカツの運営、FC展開以外にも、ご当地メニューのコンサルティングであるとか、地方から都心部への出店支援ということもやっておられますね。

 実は、輸入住宅会社の前に、新潟でまちおこしやまちづくり、地域活性化のコンサルタントを3年半くらいやっていたんです。その時は特に食にこだわっていたわけではないのですが、地域の資源を活用するということで、街並みを活かしたまちづくりや、ご当地グルメを使ったまちおこしなどをやっていたわけです。そのときの経験が、今回、タレカツと結びついて、このような事業展開となっているのです。
 地方から都心部への出店に当たっては、情報不足により、色々と不安があるかと思います。家賃が高いんだろう、競合が激しいんだろう、どこに出せばいいんだろう、という部分について、我々自身がタレカツを展開してきたノウハウをもとにリアルな提案ができます。
 それと、本当に自分たちのメニューが受け入れられるんだろうか、という不安に対しては、0店舗出店、テストマーケティングする環境、よりミクロなマーケティング、具体的にいうと、テスト販売するための環境を提供できます。
 これらは、タレカツの運営を通し培ってきたノウハウや実績により、提供可能なものになりました。

  

リアルなマーケティング環境を提供することによって、不安を解消できるということですね。

 そうです。味であるとか、価格であるとかは、地方と同じようにはいきませんから、それをリアルなマーケティングを通して微調整していけばいいわけです。
 極端な話、秘伝のタレだとか、これがうちの味だ、などとそれぞれこだわりがあると思うのですが、それは幻で、地方で通用しているものが、都心部で通用するとは限りませんので、結局いろいろと調整が必要なのです。

  

秘伝の味に調整が必要となると、お店のウリみたいなのはどこに持っていけばよいのでしょうか?

 地方で成功しているのであれば、それは本物ですから、味というよりは、実績をウリにするのです。

  

実績というと?

 ご当地メニューなわけですから、お客さんはオリジナルを知りたがりますよね。本店はどこにあるんですか?って聞かれるわけですから、その時に、どこどこにあるんですよ、近くに行った際は是非寄って本家の味を楽しんでくださいね、っていうコミュニケーションができて、点ではなく線なり面なりを強調していくことで、信頼感が生まれるんです。

  

なるほど。バックボーンを売るということですね。

同志求ム

それでは、最後に、タレカツの今後の展開についてお聞かせください。

 まず、タレカツについては、今後もっともっと展開していきたいと考えています。まだまだ数が少ない今であれば、我々と、もっと言えば、私と一緒に業態を作っていけるタイミングであり、二人三脚サポートできるタイミングですので、それはとても面白いし、魅力的なんじゃないかなと思います。
 すでに数十店舗とか展開しているようなフランチャイズですと、もうパッケージは出来上がっていて、決まった枠組みの中でやるということだと、売り上げも大体見えてきますので、純粋に投資という見方をするのであればそれでもいいかもしれませんが、自分が店に立ってやるという人からすると魅力に欠けるんじゃないかなと思います。

  

阿部社長自ら立ち上げをサポートいただけるということですか?

 そうです。是非とも、私と一緒にやっていきたいという人に検討してもらえればな、と思っています。

  

本日は、株式会社ラグーンインターナショナルの阿部社長にお話しをいただきました。阿部社長、お忙しい中お時間を頂戴し、また、貴重なお話を頂戴しましてありがとうございました。

 こんなお話しでよかったらいつでもお話ししますよ(笑)。

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プロフィール

株式会社ラグーンインターナショナル
代表取締役 阿部 信明 (あべ のぶあき) 氏
タレとご飯の美味しい丼店
『 たれかつ次郎 』

の詳細はこちら



「食楽」(2010年10月号)の日本一旨い丼で神保町本店が掲載されました。

株式会社ラグーンインターナショナル
代表取締役 阿部 信明 (あべ のぶあき) 氏


新潟大学教育学部卒業後、シンクタンクでコンサルタントとして従事。 中小企業診断士。1997年に株式会社バックスを設立し、北米型住宅技能者育成サービス事業を開始。その後事業売却を経て2000年に大手IT関連企業に入社。新規事業開発や経営管理を担う傍ら、2007年6月に「新潟カツ丼タレカツ」を開店。同年7月に株式会社ラグーンインターナショナルを設立、現在に至る。


企業データ
会社名株式会社ラグーンインターナショナル
本社所在地東京都千代田区神田神保町2丁目
設立年月日2007年7月26日
事業内容飲食店業・食料品の卸及び小売業・経営コンサルタント業
所有ブランド新潟カツ丼 タレカツ